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世界を魅了する丁寧な仕事と技術力を生み出せる理由は?"
日本は豊かな森林資源を有し、それらを活用した家具が多く生産されていることをご存じでしょうか。木の風合いを生かした家具メーカーも多く、職人が仕上げる高品質なデザインで世界的にも評価されています。「バタフライスツール」をはじめ革新的な木工製品で知られる家具メーカーの天童木工を訪れ、日本を代表する木工家具職人の技術の神髄に迫ります。
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日本の木工家具が、壊れにくく美しい理由

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日本は紀元前から森林資源が豊富で、木工製品も日本人の生活に長く浸透してきました。釘を使用せずに木と木を組み合わせて家具などを作る「指物」、木材を曲げて円形にして茶道具や弁当箱を作る「曲げ物」などの繊細な加工技術は、1000年以上の歴史があるとされています。
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皇族や武家大名の家具を作る需要が高まると、箪笥や座卓などの木工家具を専門に作る家具職人が各地に現れ始めます。献上品を作るという誇りとこだわりから、頑丈で壊れにくく、見た目にも美しい木工家具の技術が発展。皇族や武家大名も納得するクオリティを追求し続けたことで、日本の木工家具は世界に誇る技術に進化できたといえます。
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明治時代(1868〜1912年)前後になると西洋の文化が伝来し、大正時代(1912~1926年)には政府主体で庶民生活のグローバル化が推進されました。「文化住宅」と呼ばれる洋室の応接間のある家が流行したことも後押しし、西洋式の生活に合ったテーブルやイスなどの家具作りが100年以上前から盛んに行われるようになりました。
ジャパンクオリティを世界に知らしめたバタフライスツールの技術力
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山形県天童市にある天童木工は、奥羽山脈に囲まれた自然豊かな盆地に位置します。古くから木工業が盛んだった天童市や周辺地域の大工・建具・指物の業者が集まり、工業組合を結成したのが始まりです。「成形合板」家具の本格生産に着手し、日本を代表する家具メーカーに成長しました。
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成形合板とは、厚さ1mm程の薄い板を木目が交差するように一枚ずつ重ね合わせてプレス機に入れ、高周波で熱を加えて接着し、様々な形をつくり出す技術のこと。自由度の高いデザインを実現できることが最大の特徴です。しなやかで強度があり、軽くて使い勝手がよく、生活を彩る。家具としての利点を取り揃えた成形合板技術は多くの建築家やデザイナーを魅了し、天童木工とのコラボレーションにより世界的な名作を生み出しています。
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その代表が、1956年に誕生した柳宗理のバタフライスツール。同じ形の成形合板を左右対称につなぎ合わせたシンプルなデザインですが、蝶が羽を広げたような無駄がなく完璧な曲線が美しく、誕生から半世紀経った今もなお天童木工を代表する看板商品です。ルーブル美術館やニューヨーク近代美術館などにコレクションされ、“デザイン史の傑作”とも呼ばれています。
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ほかにも、世界的建築家・磯崎新のモンローチェアはその名の通りマリリン・モンローのボディラインを参考に作られたチェアで、うねるような曲線美を木工製品で再現しています。
木がきしむ音も聞き分ける。日本の家具職人が持つ「執念」
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実は、成形合板自体は木工家具の生産が多い国では珍しくない技術です。しかし、「日本の家具職人には執念がある」と、天童木工の今田さんは語ります。不良品を一枚でも出さないよう、そして板がしっかりと固定されるよう、職人全員が細心の注意を払っています。
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高周波プレス機で成形する時、わずかながらにきしむような音が鳴り、職人はその音を聞いて少しずつ調整しながら圧力を加えます。家具のデザインによって圧力をかける時間や方向は異なり、その見極めは職人に委ねられています。
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バタフライスツールも木目が交差するように一枚ずつ重ね合わせることで強度が増し、蝶の羽のように繊細なデザインが完成します。組み上げた時に左右対称に現れる木目は、スライスされた板から、より近いものが選ばれます。成形合板の技術を最大限に発揮させ、より強度が高くて美しく仕上げるための執念は、日本独自といえるでしょう。
世界で評価。針葉樹を生まれ変わらせる日本の木工家具技術
森林に囲まれた日本では、職人技術が光る木工製品はもちろん、一般的に活用の範囲が狭い軟質針葉樹の家具も生産されています。
1920年創業の老舗家具メーカー「飛騨産業」は、地元である岐阜県の森林組合等と家具に適したスギ材を開発。針葉樹は広葉樹に比べ軟質のため、スギ材を丁寧に加圧プレスすることで、強度を確保しています。国内外のデザイナーとともに、世界最大級の家具見本市である「ミラノ国際家具見本市」を始め、針葉樹を使用した家具の魅力を世界中に発信しています。1947年創業の総合家具メーカー「カリモク」も、ヒノキなど国産の針葉樹を材料とした家具のコレクション「MAS(マス)」を開発しました。構造の工夫や芯材に広葉樹を採用することで、強度を確保しながら針葉樹の持つ本来の表情を活かしています。
そして、天童木工は針葉樹を成形合板に応用する技術「Roll Press Wood」を開発。この技術は2015年の『ものづくり日本大賞 内閣総理大臣賞』を受賞した技術で、これまでの針葉樹の家具にはない、美しい曲線を持つ家具を実現しました。

世界を見ても針葉樹を家具や建築物に活かしている例は少ないのが現状です。
頑丈で屋外でも使用できるほどの耐久性を持てるほどの品質を実現できるのは、家具メーカーと森林組合の双方が「資源を有効活用して、豊かな自然を守りたい」というたゆまぬ思いがあるからです。
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しなやかな曲線を描き、木材の良さを引き出す日本の木工家具は、落ち着いたインテリアを演出します。ぬくもりを感じられて安らぎを与える日本の木工家具を、生活の一部に取り入れてみませんか。
※価格やメニュー内容は変更になる場合があります。
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